エッセイ
第1部 アスペルガーの宣告
「はい?」それは突然の宣告だった。
あらかじめ心の準備はしていたものの体の力が抜けていくのが分った。目の前で眼鏡を掛けた痩せ気味の五〇代の白衣を羽織った男性が淡々と説明をしている。
それが義務付けられたセリフのように。

真っ白な紙に直線を書いている。私が呆然とその線を眺めていると「これが一般の子供だとします」
そう言って次はジグザグの線を書き出した。「これがあなたのお子様です」

―ジグザグ?

「これは一種のその子の特性です」
淡々とこちらの表情も見ずに話している。慣れた作業のようだ。この病名を説明する為に何度この先生はこの作業を繰り返したのだろう・・・
ジグザグを何度書いたのだろう・・・一般の子供は直線、私の子供はジグザグー私は目眩がした。
義務的に話している先生の声は聞こえなくなった。

目を覚ますと夫と長男が横に居た。どうやらベットに横になっていたらしい。
「大丈夫?」夫が言った。
私は言葉を発する事が出来なかった。私はここ何ヶ月か前から具合が悪かった。眠れないしまるで足かせがあるようで体が重かった。

その症状は長男が小学校に入学した直後の家庭訪問あたりから始まった。
その日は仕事を早めに切り上げて自宅へ帰った。5月のとても天気のいい日、車で自宅へ戻ると長男の担任が汗を拭きながら私の帰宅を待っていた。
私は慌てて時計を見た。
予定より早い時間だった。すばやく車から降り、「お待たせしてすみません」と言いながら自宅の鍵を開けた。
「いいえ、ちょっと早めに着きましたので気にされないで下さい」
かなりベテランらしき女性教師は「お邪魔します」と靴を揃えていた。
先生を急いで家に招きいれアイスティーを入れた。
「ありがとうございます」
先生はアイスティーを一口飲んで口を開いた。
「お子さんはご自宅でどんな感じでしょうか?」
「はい?」
「いえ、ご自宅での様子をお伺いしたくて」
先生というものは学校での話の前に自宅での話をするものなのか?
疑問に思いながらも「最近ちょっと落ち着きがない気がします」と答えた。
いや、ちょっとどころではなかった。新しい環境に馴染めないのか奇声を発したり次男に暴力を振るったりしていた。私は周囲からも祝福された入学を心から喜んでいたので入学当初だったその時点では環境に馴染めていない些細な行動ととらえていた。

先生は眼鏡を外して汗をふき取りながら口を開いた。
「実は・・・席にじっと座れないんです」
「はぁ」
私はやはり小学校に慣れていないのだと解釈した。
「あの、失礼ですが保育園か保育所出身ですか?」
また不思議な質問をされた。学校の先生はそんな事も把握していないのか。ややムッとして「幼稚園出身ですがそれが何か?」と答えた。
少しつっけんどうだったかもしれない。
「そうですか」
もったいぶった先生の態度が私を余計に苛立たせた。
「先生、うちの子が何か?」率直に訊いてみた。
先生の顔が深刻になった。アイスティーの氷がカランと音をたてた。
「落ち着きがないんです。席には座れない」
一呼吸置いた後「お母さんはアスペルガ‐と言う病名をご存知ですか?」いきなりだった。
アスペルガ‐?
私が今までに子供がかかった病気からその言葉を探していると「申しあげにくいですがまだ決まった事ではありません。私、色々と調べてこの辺りで有名な小児科の先生を調べました。もし宜しければそこの病院に行って相談だけでもされてはどうでしょうか?」
沈黙。
「先生、アス・・・何でしたっけ?」
先生は「アスペルガ‐です」と今度ははっきり聞き取れるようにゆっくり病名を告げた。
明るい日差しが先生と私を照らしている。
私は困惑した。
「何の事だか分りません。一体アスペルガ‐とは何ですか?」
私が身を乗り出して尋ねた。
重い重い口がようやく開いた。
「私は病院の医師ではありません。ただ何十年と教師を勤めてきて最近の病気の事に詳しくはなりました。まだ確定とかそういう段階ではないのです、解っていただけますでしょうか?」
私が頷くと言葉を続けた。
「大きく分類したら自閉症の一種です。」
自閉症?
私が前かがみになったまま膠着していると
「まだ単に学校に慣れてないだけかもしれません。私の早合点かもしれません。あまり気になさらないで下さい。ただ一応小児科には行かれた方がいいと思います。」
私は頭が真っ白になった。
気になされないで下さい?気にしないバカはいないだろう。先生も私のダメージがかなりひどい事を悟ったのか
「何かご家庭でも気になる事があれば連絡下さい」と申し訳なさそうに頭を下げて家を後にした。

アス・・・ペルガー
自閉症の一種

先生の座っていたテーブルの上には小児科の名前と電話番号が書かれたメモ用紙が置かれていた。
アイスティーのグラスの水滴は涙のように流れ落ちていた。
私は夫の帰りを待って相談しようと思った。
時計に目をやった。3時。次男を幼稚園に迎えに行かなければいけない時間だった。
よし!自分に気合を入れようと言葉を発した瞬間涙が零れ落ちた。
今泣いても何もならない。まだ決まってはいないのだから。
心と裏腹に涙がせきを切って流れていた。
心当たりはあったのだ。 私はそれが私の育て方のせいだと決め付けていた


第2部へつづく
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